一食入魂
2020年コロナ禍の中、僕は、咽頭癌が見つかり、
放射線治療を行なっていた。
副作用は、口内炎、味覚障害で、固形物を口にできなくなっていた。
薬も錠剤から顆粒剤に変えてもらったくらいだ。
当然、食べ物の味は全くしない、甘味、辛味、など全くわからない。
野菜を食べても、草を食んでいる感じで自分が馬にでもなった気分。
食欲がなくなるということは、生きる気力の減退につながることに、その時気づいた。
(このまま味がわからなくなったらどうなるんだろう)と。
お医者さんに「味覚障害はいつ良くなりますか?」と聞いて、
「半年ぐらいで治る人もいるし、1年以上かかる人もいるからね」
元に戻ることは戻るらしいけれども、時期は人それぞれらしい。
暗澹とした気持ちになったことを覚えている。
今、振り返っても味覚障害がいつ治ったか覚えていない。
自然と味が戻ってきた感じなのだ。
急に、昨日までわからなかった味が、今日わかったというのではない。
そう考えると、人間の治癒力は不思議と言わざる得ないし、
機械のように、パパッと修理するようにはいかない。
今、美味しいものを美味しいと食べられることに感謝したい。
一食入魂、食欲はなくならない。


